同じ相手から単発の仕事を繰り返し受けていて、毎回見積もりを出して、毎回請求書を書いている。その状態から月額の契約に切り替えた話を書きます。
私が最初に言ったのは「業務委託にしませんか」の一言でした。制作費の単価は据え置きです。締結まで2か月かかり、切り替えたあと、手を動かす作業は減りました。代わりに増えたのは、断る回数です。
読んでほしいのは、まだ月額が1本もなく、切り出し方が分からない人です。すでに月額を何本か持っていて、範囲の管理に困っている人が知りたいこととは違う話になります。
「業務委託にしませんか」から始まりました
先に、いちばん知りたいところを書きます。私が言ったのは、この一言だけです。
「業務委託にしませんか」
言葉を補うと、1本ずつ発注してもらうのをやめて、1年ぶんまとめて任せてもらえませんかという意味です。私はすでに業務委託で受けていましたが、相手にとっては発注の単位を、1本から1年に変える提案でした。
返ってきたのは「じゃあ提案書持ってきてください」でした。
その場で断られることも、値段の交渉が始まることもありませんでした。話はそのまま、提案書を作る段取りに変わりました。
この一言を言った時点で、私は資料を1枚も持っていません。先に口で言って、求められてから作りました。
最終的に作った提案書はA4で5枚です。言う前に5枚を用意したのではなく、言ったあとに5枚を作りました。この順番でなければ、重すぎて言い出せていません。
私は福島で映像制作の仕事をしていて、相手は観光の施設です。動画を1本ずつ受けて、納めていました。
切り出したのは、値段ではなく相手の社内手続きでした
きっかけは私の都合ではありません。相手の困りごとでした。
動画を1本つくるたびに、先方の担当者は私の見積もりを受け取り、社内の決裁を通していました。その作業が煩雑だという声を、私は何度か聞いていました。
「業務委託にしませんか」と言ったのは、その声に対してです。売上を安定させたいという自分の事情は、口に出していません。
単発から月額への切り替えとは、私の場合、相手が毎回やっていた社内手続きを一度にまとめる提案でした。
いくら払うかを変える提案ではなく、何回手続きするかを変える提案です。
そして実際、制作費の単価は変えていません。
数字で書きます。単発のころは、動画4本の一式で月7万円でした。業務委託にしたときも、その7万円を12か月ぶんという置き方です。制作の単価はそのままです。
そこに、運用費と企画費が乗りました。年間の契約額は110万円です。7万円×12か月は84万円なので、26万円ぶんが、それまで値段のついていなかった仕事の分ということになります。

値上げの交渉をしたわけではありません。動画の値段は据え置いたまま、それまで無料でやっていた運用と企画に、値段がついたという順番でした。
月額の提案が値上げのお願いに見えるかどうかは、何を先に言うかで変わります。私は手続きの話から入りました。相手が困っていなければ、この一言は出てきませんでした。
正直に書くと、私の場合は相手が口に出してくれていたので気づけました。言葉にしてくれない相手からどう引き出すかは、私には答えがありません。
提案書はA4で5枚でした
重さの目安として、何が並んでいたかだけ書きます。
1. いまの状況の整理(この施設の強みはここで、課題はここだと思います)
2. これからやっていくことと、そのために集めていく情報
3. うちがやる意味(当時の私は個人事業主です。個人の自分に何ができて、何を出せるか)
4. 具体的なスケジュールとプラン、そして料金
5. これをやった結果、どういう未来を一緒に作るか
当時の私は個人事業主です。会社の看板がないので、3枚目には「個人の私に何ができて、何を提供できるか」を自分で書きました。
決裁は3段階、締結まで2か月かかりました
提案書を出してから契約になるまでに、通った関門は3つです。
| 段階 | かかった時間 |
|---|---|
| 担当者にOKをもらう | 即決 |
| 担当部署の上司を交えて、3人で打ち合わせをする | 2週間ほど |
| 相手の会社の社長へ説明する | さらに1か月ほど |
合わせて約2か月です。
止まっていた理由は、審査でも検討でもありません。上に行くほど予定が埋まっていて、会う日を作るのに時間がかかっただけです。担当者が即決だったのは、それまでの話でもう理解していたからでした。
3つ目は、プレゼンというより「よろしくお願いします」に近い場でした。中身はその前の2つで固まっていたからです。
山場は、上司との3人の打ち合わせでした
上司は私のことを知りません。仕事をしている人がいる、くらいの認識です。だからこの場は、提案の中身の前に、私が何者かを確かめる時間から始まりました。
聞かれたのは、この4つです。
- 私自身と、事業について
- これまでの取引先
- 単発でやったときの制作本数と、その内容
- その成果は、施設にとってどうだったと思うか
4つ目が、いちばん答えを用意しておくべきところでした。作った本数や内容は資料を見れば出てきます。でも「あれは相手にとって何の役に立ったのか」は、自分の言葉で持っていないと、その場では出てきません。
裏を返すと、それまでの仕事を自分でどう評価しているかを聞かれたわけです。
そこを抜けてから、提案書に沿って進みました。「こういうことが課題だと思ったのは、以前この話をしていたじゃないですか」という形で、担当者との会話をそのまま材料にできたのが助かりました。
書いておきたいのは、私がふだんやり取りしていた担当者の上に、決める人がまだ2人いたということです。
単発のときは、担当者と私のあいだで話が終わっていました。1本ごとの金額が小さく、その範囲の決裁で済んでいたからです。年単位の契約にすると、扱う金額が変わり、通る階段が増えました。支払いが月ごとになったのは、その年間の契約を月で割ったからです。
つまり、月額の提案は担当者を通す提案ではなく、担当者に社内を通ってもらう提案です。担当者が上司と社長に説明する材料を、こちらが作ることになります。
断られるとは、考えていませんでした
ここは格好つけずに書きます。
大丈夫だという確信があったわけではありません。断られるかどうかを、そもそも考えていませんでした。
いま振り返ると、馬鹿だったから動けたのだと思います。やってみるしかない、ダメだったらダメでしょうがない、くらいの感覚でした。勇気を出したわけでも、勝算を計算したわけでもありません。
これを美談にする気はありません。提案する前に断られる場面を想像していたら、私はたぶん言い出していません。
私が失うものは、多くありませんでした。断られても、それまでどおり1本ずつの発注が続くだけです。単発の関係を壊しにいく提案ではなく、単発の上に乗せる提案だからです。
ただし、失う側にいたのは私だけではありません。通らなかった場合、社内で2回説明をした担当者のほうには、空振りが残ります。私は自分の話として「ダメだったらダメでしょうがない」と思っていましたが、その「ダメ」を持ち帰るのは担当者です。
そこまで考えていませんでした。いま書いていて、考えておくべきだったと思います。
ただ、では何か特別なフォローを用意しておくべきだったかというと、そうでもないと思っています。通らなかったとしても、いつもと変わらず「だめでしたね」くらいで進めるしかありません。担当者にとっても、社内で通らない案は珍しいことではないはずです。
大げさに考えていたのは、私のほうかもしれません。
手を動かす作業は減り、頭を使う仕事が残りました
月額になって、作業は減りました。ただ、減り方に偏りがあります。
極端に減ったのは、手を動かす作業のほうです。毎回の見積もり、請求、そのたびの段取り。ここが年に一度の契約にまとまりました。
代わりに残ったのは、頭を使う仕事です。年間の企画を考えたり、次にどの方向へ振るかを決めたりする部分は、月額にしても減りません。むしろ増えました。
それでも全体の量が減ったのは、考えたことを企画書や文章に落とす作業を、いまはAIに渡しているからです。頭を使う仕事が増えても、手の作業と合わせた総量では減りました。
規模が分からないと比べようがないと思うので、金額を1つだけ書きます。私の場合、この契約はいま月25万円です。私のこの1本の話で、相場ではありません。
切り替えた時点は年間110万円でした。そこから契約が育って、いまの額になっています。
毎月の中身と、そこからいくら手元に残るかは、売上を4本の柱に分けている記事のほうに書いたので、ここでは繰り返しません。
この契約は、いまも続いています。切られたことは、いまのところありません。ただ、相手の予算や担当者が変われば終わるものだとは思っています。私はまだ、その経験をしていません。
増えたのは、断る回数でした
ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。
月額になってから、月額の範囲内で「あれもこれもやってよ」という追加のオーダーが来やすくなりました。単発のころは、頼めば見積もりが出てくることがお互いに分かっていました。月額になると、その前提が薄くなります。
これは気分の問題ではありません。制作の単価は据え置いたままなので、頼まれる量が増えれば、そのぶん実質の値下げになります。だから断る必要が出てきました。
切り替えのときに運用費と企画費をつけてもらったのは、それまで値段のついていなかった仕事に値段をつけるためでした。そこへ、また値段のついていない仕事が積み上がっていく。同じことが起きます。
そのうえでしんどいのは、断ること自体ではありません。理由をつけて断るために使う心理的なリソースが増えました。
毎月同じ相手と付き合っているので、一回ごとに関係をリセットできません。「それは範囲外です」の一言で済ませると、翌月も翌々月も、その空気の中で仕事をすることになります。
月額にすれば楽になる、とは私は言えません。楽になったのは手のほうで、判断の回数は増えました。
それでも私は単発に戻していません。増えたのは断る回数で、消えたのは毎月の事務です。そのうえで、来月いくら入るかが契約で決まっている状態になりました。この交換は、私にとっては割に合っています。
それでも受けるときがあります
では全部断ればいいかというと、私はそうしていません。
私は福島で仕事をしていて、取引先との付き合いを切り離して考える選び方をしていません。「あいつはよくやってくれるよ」という評判が、次の紹介につながることがあると思っているからです。
だから、自分の判断で受けることがあります。判断の軸は2つです。
- 将来に効きそうだと思えること
- その場でパパッと片づくこと
このどちらかに当てはまるなら、契約の範囲に入っていなくても引き受けます。これは我慢ではなく、私が選んでいることです。
ただし、この選び方が正解だとは書けません。紹介がどれだけ増えたかを、私は測っていません。受けた仕事と来た紹介を線でつないだことはなく、体感の話です。
線引きは、机に向かう必要があるかどうかです
これは切り替えたあとの話ですが、提案する前に知っておきたかったことでもあります。月額にすると決まった瞬間から、この線を毎月引くことになるからです。
受けるか断るかを、私はこの一点で分けています。

しっかり机に向かって、頭の棚卸しをして、アイデアを作らないと形にならないもの。これは丁重にお断りします。
逆に、その場で答えが出るもの、手元の材料で1回のやり取りで終わるものは受けます。
分けているのは金額でも工数でもありません。自分の時間を、まとまった塊で持っていかれるかどうかです。10分で終わる相談と、半日机に向かう企画は、同じ「ちょっとお願い」の顔をしてやってきます。
断るときに私が持っている理由は、忙しいからではありません。その仕事にはちゃんと考える時間が要るから、ちゃんと形にして出したいという理由です。だから、その場でうやむやに引き受けるほうが、相手にとっても良くないと考えています。
今日できること
私が切り出せたのは、相手が毎回やっている手続きが見えていたからでした。見えていない状態から始めるなら、まずそこに数字を入れるところからです。
この1年に、同じ相手へ何枚の見積書を出したか数えてください。
請求書の控えでも、送信済みメールでも出てきます。相手に聞く必要はありません。
出てきた枚数が、そのまま相手が社内で手続きをした回数です。それが面倒かどうかは相手にしか分かりません。分かるのは回数だけです。
そして、その回数を次に会ったときそのまま言ってみてください。たとえば「この1年で12回、お見積もりを出していました」と、事実だけを渡す。提案でも相談でもないので、断られようがありません。
そこで相手が何か言うなら、私が聞いたのと同じ声が返ってきます。何も言わないなら、まだそのときではないということです。私の一言も、その声を何度か聞いたあとに出てきたものでした。
ここだけの話
断ったあとに、あれで良かったのかなと考える時間まで含めると、正直、単発で毎回見積もりを書いていたころのほうが気は楽でした(笑)あのころは、頼まれた時点で見積もりを出せばよかったので。
線引きの話を偉そうに書きましたが、実際には毎回すこし迷っています。「これは机に向かうやつだな」と分かっていても、その場の空気で「やっときますね」と言いそうになる瞬間が、いまでもあります。
この記事の続き
この記事に書いたのは、私に実際に起きたことです。単発を月額に変える設計、契約の作り方、範囲外を断る言い方。その手順までは、この記事に書いていません。
記事は、私が何をしたかの記録です。教材は、あなたが明日やることの手順です。
そこだけをまとめたのが LOCALANCE BOOKS「月額の書(中級)」です。私が実際に使っている型をそのまま置いています。目次と中身は、このすぐ下から確認できます。
