単価を上げてくださいと、私は一度も言ったことがありません。
それでも、受け取る金額は変わりました。変えたのは値段ではなく、自分が担当する範囲です。
この記事は、仕事は入っているのに単価が上がらない人へ向けたものです。10年前に一度、いま進行中の案件でもう一度、同じことが起きました。両方の実額を書きます。ただし古いほうは記憶に頼っている部分があります。そこは都度断ります。
最初の仕事は、MV1本15,000円でした
出発点はバンドでした。
バンドの今後についてこちらから提案したことをきっかけに、MVの制作を任されました。これが初めての制作案件で、金額は15,000円です。
実績がゼロの状態で、法人からの仕事をいくらで受けたかは別の記事に書きました。
そのあとはライブハウスに通い、複数のバンドを撮り続けました。撮った素材は各バンドへ渡り、それぞれのSNSに載っていきます。
見つけてもらった、と短く言うのは違う
ここを「撮り続けていたら見つけてもらえた」とまとめるのは、実際に起きたことと違います。
順番はこうでした。
1. バンドへ映像を納めた
2. バンドがそれを自分のSNSに載せた
3. ライブハウスに来ていた映像・Web制作会社の担当者が、その投稿を継続して見ていた
4. あるとき「いつも見ている」と声をかけられ、会話が始まった
私が発信したのではなく、納めた相手が発信していました。そこを見られていた。
自分のアカウントの投稿数を増やしていたわけではありません。第三者が「この人に頼んだ結果」を出してくれる状態が、先にありました。
正直に書くと、最初からこれを狙っていたわけではありません。バンドが好きで、撮りたいから撮っていただけです。
ただ途中で気づきました。作っても、見られる状態になっていなければ、無いのと同じだと。そこからは、渡し方も含めて意識するようになりました。
こうして声がかかるようになったあと、その紹介が全部ありがたい話だったかというと、そうでもありません。断った1件のことはこちらに書きました。
声をかけられてすぐ、案件を任されたわけではない
会話が始まったあと、いきなり案件を一括で受けたのではありません。
カメラマン見習いとして、現場に入るところからでした。
- 日当 20,000円
- 多い日は 1日に4現場
- 月あたりの稼働は 4回ほど
月4回なので、撮影による収入は月8万円です。
このとき私は温泉旅館でアルバイトもしていました。週3〜4日で、月の収入はおよそ60,000円。
つまり撮影とアルバイトを合わせて、月に14万円ほど。撮影の仕事は入っているのに、アルバイトを辞める判断ができない状態でした。
翌月、編集を任されました
その翌月、福島県内の農家や生産者、経営者へのインタビュー映像で、撮影を任されるようになります。
そして、さらにその翌月。編集も担当することになりました。
仕事の中身はこうです。30分ほどのインタビュー素材を、制作会社が5分程度まで粗く編集した状態で受け取る。それを3〜4分に詰め直し、テロップ、インサート、BGMを入れて仕上げる。
編集は1本あたり15,000円が、撮影とは別に付きました。
数字が変わったのは、この1か月です
後半の1か月で、私が編集した本数は 27本 です。
先に正直なところを書いておくと、1本あたり何時間かかっていたかの記録が残っていません。当時は時間を測っていませんでした。なので「27本」は本数の話であって、時間あたりいくらだったかは、いまも出せません。
単純に掛けると、編集料は 405,000円。
これに撮影の日当(月4回で80,000円)を足すと、試算で 485,000円 になります。当時の入金は、記憶では 約450,000円から500,000円 のあいだでした。請求書と入金記録で確定させたわけではないので、幅を持たせて書いています。
前の月まで、撮影で8万円、アルバイトで6万円でした。
この時点で、アルバイトを辞めました。
変わったのは単価ではありません
ここが、当時の自分に言いたいことです。
日当20,000円は、最初から最後まで20,000円のままでした。交渉して上げてもらったわけではありません。
変わったのは、担当した工程が撮影だけから、撮影と編集の2つになったことです。

工程とは、1つの仕事が完成するまでに分かれている作業の区切りのことです。映像なら、企画、ロケハン、撮影、編集、納品。それぞれ別の人が担当していることがあります。
撮影は現場に行った日数でしか増えません。月4回なら4回ぶんです。編集は、素材がある限り本数が積める。同じ相手との仕事で、収入の上限が動いたのはそこでした。
単価が上がらないと感じているとき、金額ではなく、自分が担当していない工程を見たほうが早いことがあります。私の場合はそうでした。
いま進んでいる案件では、もっと手前まで巻き取っています
10年前の話だけで終わらせると、昔はよかったという話になります。いま進行中の案件でも同じことが起きているので、そちらも書きます。
福島県内の温泉地のPR動画です。以前から取引のあるWeb制作会社から相談を受けました。相談の段階では、私は撮影と編集の担当でした。
打ち合わせで、どういう案件なのか、ゴールは何かを聞いていきました。売りたいのは何か、誰に届けたいのか。単に確認していただけです。
そうしているうちに、先方から言われました。「企画としてもう入ってくれない?」
私から「企画をやらせてください」と言ったのではありません。聞いていたら、そうなりました。
いまは、ロケハンに一緒に行き、絵コンテを描き、工程表を作っています。大元のクライアントと、さらに上流の元請けを交えた合同打ち合わせにも、何度も出ています。

増えた費目
- ロケハン代
- コンテ代
- ディレクション代
- 撮影工程の管理(外注カメラマンへ渡す予算の管理を含む)
最後のものだけ性質が違います。外注する人の手配と予算の管理を引き受けたぶん、その管理料を受け取れるようになりました。
念のため書いておくと、外注する人に渡す額を削って自分の取り分にしている、という話ではありません。私自身、いまも外注される側に回ることがあります。削られる側の気持ちは分かっているつもりです。
金額は、撮影と編集だけを受けていたときの3倍ほどです。実額は書きませんが、比率はこのくらいです。
足す工程には、効くものと効かないものがあります
ここは正直に書きます。何を足しても金額が上がるわけではありません。
私の実感では、こうです。
| 足す工程 | 私の見立て |
|---|---|
| 構成、台本、企画 | 効きます |
| 字幕 | 微妙です。いまはAIでできるので、値上げの交渉が通りにくい |
| 納品管理、SNS投稿 | 同じく微妙です |
構成や台本は、機材で解決する作業ではありません。知識を仕入れたり、何かを体験したりして、自分の中に溜めたものを組み上げる作業です。だから機材を持っていない人でも入れます。そのかわり、蓄積がないと入れません。
一方、字幕や納品管理は、作業としては足せますが、「じゃあその分ください」と言いにくい。代わりがきくからです。
基本的には、上流に行くと考えたほうがいいと思っています。手前に行くほど、判断が要る仕事になります。判断は代わりがききません。
私は、会って話す形でしかやっていません
ここは正直に書きます。
私が上流に入れたケースは、全部、直接会って話している場面から始まっています。ロケハンに同行し、打ち合わせに出て、現場を見る。オンラインだけで、あるいは資料のやりとりだけで企画に入った経験は、いまのところありません。
避けているわけではありません。会って話して、現場を見たほうが情報が多いからです。その場で気づくことがあるし、こちらから提案できるものも増える。だから結果的にそうなっています。
つまりこの記事の実例は、「その場にいられる人」の話です。在宅で、移動が難しくて、打ち合わせもほとんど無い、という人には、そのままは当てはまりません。
それでも、動かせる場所はあると思っています
私がやった話ではないので、ここから先は私ならこうする、という話として読んでください。
編集だけで入っている人が、明日から足せるいちばん小さいものは、数字を見ることだと思います。
1. 出した動画の数字を見る。チャンネル全体でもいい。SNSの動画なら、そちらの数字でも
2. それを踏まえて、次に撮るネタを提案する
3. 撮影までできるなら撮影も引き受ける。できないなら、進行を引き受ける
1は在宅でできます。移動も、対面の打ち合わせも要りません。素材と、公開されている数字があれば足ります。
そして1をやっていると、2が自然に出てきます。「この形が伸びているので、次はこういうのはどうですか」という話は、数字を見ていない人には言えません。
順番はこうだと思っています。分析が先で、提案が後です。いきなり企画を出すより、数字を見た人の提案のほうが通ります。
責任の重さが変わります
上流に行くというのは、その案件がうまくいくかどうかに責任を持つ側へ回るということです。ロケハンで場所を外せば全部が狂うし、コンテが甘ければ撮影が止まります。作業を足すのとは、負う責任が違います。
そこまでやらないと、個人で稼いでいくのは難しいと私は思っています。
みんなが会社を作るような意気込みでやる必要はありません。ただ、受け取った素材を処理するところだけに留まっていると、単価は動きませんでした。少なくとも私の場合は。
良い話にはしません
これを美談として書くつもりはありません。
後半の1か月は、アルバイトと並行していたこともあって、睡眠がほとんど取れませんでした。27本という数字は、そういう状態で出たものです。
当時の私は独身で、生活に守るものがありませんでした。時間を全部つっこめる条件があって初めて成立しています。家庭がある人が同じ働き方をしたら、続きません。
日当20,000円で1日4現場という条件も、相場でも、目指すべき水準でもありません。私が当時その条件で入っていた、というだけです。いまの私なら受けません。
続けられたのは2か月だからです。これを1年続けていたら、たぶん体を壊していました。
この形が成り立つ条件
同じことをすれば同じ結果になる、とは書けません。私の場合に効いていた条件を挙げます。
- 粗編集された状態で素材を受け取れた。30分の素材をゼロから触っていたら、27本は物理的に無理でした
- 尺と担当範囲が決まっていた。3〜4分に詰める、テロップとインサートとBGMを入れる。毎回考え直す部分がなかった
- 相手に、埋まっていない工程があった。制作会社が編集を外に出したかったタイミングと重なりました
3つ目は運です。ただ、1つ目と2つ目は聞けば分かることでした。
今日できること
1つだけ。
自分に届く前の工程で、誰が何を決めているのかを1つ聞いてください。
編集だけを請けているなら、その構成は誰が決めているのか。撮影だけなら、その企画は誰が書いたのか。デザインだけなら、原稿の中身は誰が決めたのか。
「誰が作業しているか」ではありません。誰が決めているかです。そこが上流です。
打ち合わせが無くても聞けます。メールやチャットの返信に、一行足すだけです。
今回の構成は、御社で作られたものでしょうか。次回以降、そのあたりからご相談いただくことも可能です。
後半は言わなくても構いません。前半だけでも、聞いた事実は相手に残ります。
私が企画に入ることになったのも、聞いていただけでした。手を挙げたのではなく、聞いているうちに向こうから来ました。すぐに何かが変わるわけではありません。ただ、聞かないと、自分に届く前のことは永久に見えないままです。
ここだけの話
27本の月のことは、正直あまり覚えていません。朝までやって、寝て、旅館のバイト行って、帰って編集して、みたいな生活でした。いまはできません。それと当時は「編集も任された、うれしい」くらいの感覚で、収入の構造が変わったなんて1ミリも考えていませんでした。あそこが分かれ目だったと思うのは、あとから振り返ってのことです。
この記事の続き
この記事に書いたのは、私に実際に起きたことです。最初の案件をどう取るか、見積もりをどう作るか、どう断るか。その手順までは、この記事に書いていません。
記事は、私が何をしたかの記録です。教材は、あなたが明日やることの手順です。
そこだけをまとめたのが LOCALANCE BOOKS「受注の書(入門)」です。私が実際に使っている型をそのまま置いています。目次と中身は、このすぐ下から確認できます。
